大阪高等裁判所 昭和62年(ネ)1954号 判決 1989年2月21日
昭和六二年(ネ)第一九五四号事件控訴人
株式会社京都福田
同年(ネ)第二一二九号事件被控訴人(以下「第一審被告」という。)
右代表者代表取締役
福田稔
右訴訟代理人弁護士
桑嶋一
同
置田文夫
同
山村忠夫
昭和六二年(ネ)第一九五四号事件被控訴人
村井俊之
同年(ネ)第二一二九号事件控訴人(以下「第一審原告」という。)
昭和六二年(ネ)第一九五四号事件被控訴人
安岡豊
同年(ネ)第二一二九号事件控訴人(以下「第一審原告」という。)
昭和六二年(ネ)第一九五四号事件被控訴人
金本良宣
同年(ネ)第二一二九号事件控訴人(以下「第一審原告」という。)
昭和六二年(ネ)第一九五四号事件被控訴人
小林智恵子
同年(ネ)第二一二九号事件控訴人(以下「第一審原告」という。)
昭和六二年(ネ)第一九五四号事件被控訴人(以下「第一審原告」という。)
金水政佳
右五名訴訟代理人弁護士
中尾誠
同
杉山潔志
主文
一 第一審被告の控訴を棄却する。
二 第一審原告村井俊之の控訴に基づき原判決主文第一項を次のとおり変更する。
1 第一審被告は、第一審原告村井俊之に対し、二三一万七〇八八円及び内金一八万二七〇二円に対する昭和六〇年二月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 第一審原告村井俊之のその余の請求を棄却する。
三 第一審原告安岡豊、同金本良宣及び同小林智恵子の控訴を棄却する。
なお、前記二項2との関係で原判決主文第六項を次のとおり改める。
「第一審原告安岡豊、同金本良宣及び同小林智恵子のその余の請求を棄却する。」
四 訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。
五 この判決の第二項1は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 第一審被告
(昭和六二年(ネ)第一九五四号事件<以下「第一九五四号事件」という。>について)
1 原判決中第一審被告の敗訴部分を取り消す。
2 第一審原告らの請求を棄却する。
3 訴訟費用は第一、二審とも第一審原告らの負担とする。
(昭和六二年(ネ)第二一二九号事件<以下「第二一二九号事件」という。>について)
1 第一審原告村井俊之、同安岡豊、同金本良宣、同小林智恵子ら四名(以下これら四名を指すときは「第一審原告村井ら四名」という。)の控訴を棄却する。
2 訴訟費用は第一、二審とも第一審原告村井ら四名の負担とする。
二 第一審原告ら
(第一九五四号事件について)
1 第一審被告の控訴を棄却する。
2 訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。
三 第一審原告村井ら四名
(第二一二九号事件について)
1 原判決中第一審原告村井ら四名の敗訴部分を取り消す。
2 原判決主文第一ないし第四項及び第六項を次のとおり変更する。
(一) 第一審被告は、第一審原告村井に対し、二九八万八九五四円及び内金二四万九七六〇円に対する昭和六〇年二月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 第一審被告は、第一審原告安岡に対し、三六七万七〇八四円及び内金三七万〇四二八円に対する昭和六〇年二月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
(三) 第一審被告は、第一審原告金本に対し、一二八万七〇三五円及び内金二〇万三四四九円に対する昭和六〇年二月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
(四) 第一審被告は、第一審原告小林に対し、六五万〇五三七円及び内金一八万〇一三三円に対する昭和六〇年二月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。
4 仮執行宣言
第二当事者の主張
当事者双方の主張は、次のとおり訂正、付加するほか原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する(ただし、原判決七枚目表五行目「法内時間外労働をせしめられた。」を「法内時間外労働をさせられた。」に、同裏六行目の「労働せしめられた。」を「労働させられた。」に、一二枚目表初行から二行目にかけて「所定内労働賃金月額」を「所定内賃金月額」に、一七枚目表九行目の「原告らは」を「第一審原告らの中には」に改める。)。
1 原判決一一枚目表四行目の「認める。」を「認める(ただし、請求原因1のうち、第一審被告の従業員数及び東京支店の所在地の点は除く。第一審被告の従業員数は一三四名であり、東京支店の所在地は東京都千代田区平河町二丁目一二番五号である。)。」に訂正する。
2 一一枚目表七行目の「振替休日を具体的に指定していなかったこと」を「振替休日につき具体的に確定日を指定していなかったこと」に訂正し、同八行目の「認める。」の次に左記を付加する。
「第一審被告は、確定日をもって振替休日を指定しなかったものの、第一審原告ら従業員の都合に合わせることができるように、第一審原告らの希望する日に振替休日を取るよう指示していたものである。」
3 一一枚目裏三行目の「原告らが」を「第一審原告ら(ただし、第一審原告村井及び同安岡を除く。)が」に訂正する。
(第一審被告)
一 ところで、第一審原告村井は、昭和五六年四月一日から同五八年三月三一日までは本社総務課主任として、同五八年四月一日から同年八月三一日までは城陽工場管理課課長として、同年九月一日から同五九年八月三一日までの間は本社企画管理部主任として、第一審原告安岡は、昭和五七年四月一日から同五九年八月三一日までの間本社営業部営業二課主任として、それぞれ管理職の地位にあったものである。したがって、右両名についてはその管理職の地位にあった期間については、労基法四一条二号の適用を受けていたものであり、第一審被告は、労基法四一条二号に該当する管理者に対して時間外賃金の支払義務を負うものではない。同法四一条二号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」又は「機密の事務を取り扱う者」とは、その名称にとらわれず、勤務の具体的態様に照らして、経営者と一体的な立場にある者であるか否か、労務管理上監督的地位にあるか否か、出社退社等について厳格な制限を受けていたか否か等を実質的に判断して決定されるべきものである。この判断において、いくらの役職手当が支給されていたかも当然考慮されるべきである。
二 原判決のした「時間外労働の実態」に関する事実認定は、不当に第一審原告ら側に有利なものであり誤った認定である。
原判決は、第一審被告においては、残業は日常的に行われていたことが認められるというが、特に第一審原告村井と同安岡についていえば、第一審被告は同人らに対し残業命令を出したこともなければ、それに応じて同人らが残業届を出し、これにつき所属長が承認した事実もないので、残業をしたとの事実の認定そのものにも不服があるが、第一審被告としては、右両名につき多少の残業があったとしても、同人らは前記一のとおり一時管理職の地位にあったものであり、その間は労基法四一条の適用を受けるものであるから、その点についての判断をなしていない原判決は事実誤認ないし理由不備の謗りは免れないものといわなければならない。なお、第一審被告は、第一審原告金本に対しても、残業命令を出したことがなく同人から時間外労働に従事したとの届を受けたこともない。ところで、所定労働時間外に社内に残っている従業員から注文があると、第一審被告は、その費用で食事を準備していたが、これは福利厚生の一環として行っていたものである。したがって、右食事の提供を時間外労働に対する給食であるとみるのは誤りである。
なお、営業課課員については、事務担当職いわゆる内勤者以外の者には、月額一万円の営業活動手当が支給されているが、これは、外勤の場合は、休憩も規則どおりにはとるということもできないかもしれない替わりに半日一服ということがあっても、管理する方法がないという点は出張と同一であるから、多少の所定時間外労働があってもそれを代償する意味も含めて営業活動手当として特別の手当を支給しているものである。したがって、第一審原告安岡に限らず、第一審被告においては、営業課員(内勤者を除く)に対して営業活動手当を支給し、その勤務時間と所定労働時間との多少のずれにつき実質的補償を行っているのであるから、この点についての考慮がなされていない原判決には事実認定上重大な欠陥があるといわねばならない。
三 第一審被告では、タイムカードは単に従業員の出・退社の記録として利用しているにすぎず、実際の労働時間、特に残業時間は第一審被告所定の届書に記載し、これにつき上司による確認を経ることによって、正規の労働時間の認定が行われていたものである。ただ、届書と照合する際、一定事項(遅刻・早退・欠勤・特別休暇等)及び時刻を転記しているのは、後において、各従業員の出勤率を計算するのに便利であるので、その範囲で整理をしているものであって、原判決の言うように、タイムカードによって労働時間を管理しているものではない。タイムカードの打刻時刻によって、直ちに従業員が就労し、または就労から離脱した時間であると見ることはできない。
四 なお、第一審被告においては、従業員の賃金計算は次に述べる手続で行っている。
1 総務課においては、全部署より送付されてきた届書に基づき、その届書の記載がタイムカードの打刻による時間表示と矛盾しないかどうかをその都度検討しておき、毎月一六日頃より数日間をかけて賃金計算のために出勤表(<証拠略>)を作成し、これを経理課へ回付し、同課において賃金計算を行う。
2 届書には、有給休暇・特別休暇・代休・欠勤・遅刻・早退・外出・直行・直帰・出張について欄が設けられ、当該事由に○印をつけることになっているほか、その他の欄が設けられ、その箇所には休日出勤・時間外労働等の行われた場合にこれを記入する。
3 従業員が時間外の勤務を行う場合は、所属長が指示し、それに基づいて、従業員が行った時間外勤務を届書に記載し、所属長の承認を得て、届出ることになっている。これによって、総務課では、当該従業員につき時間外労働の事実を確認して出勤表に記入する。
4 右届書の記載(もちろん時間外労働・休日出勤も含む)とタイムカードの打刻とが矛盾する場合は、届書記載に従って、時間計算を行っている。
5 届書とタイムカードとを照合したときに出・退時にタイムカードの打刻がされていない場合があるが、そのときは、その理由を調査する必要がある。
(一) 出社時刻のみが打刻されていない場合は、遅刻(遅れて出社した際タイムカードが整理中のとき)、直行・出張の一部及び打刻忘れがあるが、これらはすべて届出事項であるから、総務課の担当者は、各所属長を通じて、速やかに届書を提出するよう求め、書類を完備するよう務めているが、賃金計算をするための出勤表の作成に間に合わない場合は、やむを得ず、口頭にて、一応事由及び出社時刻を聴取し、事後速やかに所属長の承認を得た届書の提出を求める扱いをしている。
(二) 退社時刻のみが打刻されていないのは、直帰・出張の一部及び打刻忘れであるが、この場合も前同様の処理を行っている。
(三) 出・退社とも時刻の打刻されてないものは、有給休暇・特別休暇・代休・欠勤・直行かつ直帰・出張及び打刻忘れであるが、すべて届書によってその理由を明確にする必要のあるものなので、総務課の担当者としては、速やかな届書の提出を督促し処理している。
五 昭和五九年九月一日に人事異動が行われ、その際第一審被告がその人事異動につき事前に組合へ打診したり、話合いをすることがなかったとの事実はあったが、第一審原告村井、同安岡及び訴外金井の降格は、同人らが組合員であることが労働組合法二条一号に抵触することになったためであり、降格後所属課を変更したのは、業務上、人事上の必要性に基づくものであり、正当な事由による人事異動であって何ら不当労働行為に該当するものではない。
六 第一審原告らの主張四は争う。
(第一審原告ら)
一 第一審被告の主張一は争う。
第一審原告らが管理職であるとの主張は今までに一度もされたことはなく、右の如き第一審被告の主張は審理遅延のためにするものであって失当である。
第一審被告の就業規則によれば、本社主任及び工場課長はいずれも「役職」となっているが、しかし、労基法四一条二号(事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者)に該当するものとして就業規則上の労働時間等に関する規定を適用しないことがある役職としては課長以上が規定されており、主任及び工場課長はそもそも対象外である。なお、第一審原告村井及び同安岡が第一審被告より受け取っていた「役職手当」は、第一審被告賃金規定によれば時間外労働手当の算定の基礎に含まれているものである。
二 第一審被告の主張二、三、四は争う。
第一審被告は、従業員に対して届書のその他の欄に時間外労働をした場合はその旨記載するよう指示していたというが、そのような事実はない。また、第一審被告は、従業員の賃金計算について、届書を基礎としていたかの如き主張をしているが、これは誤りである。第一審被告における時間管理は、タイムカードが基本であり、タイムカードを打刻できない場合等に補充的に届書を利用していたものである。
三 第一審被告の主張五は争う。
四 時効の中断について
第一審原告らは、組合結成総会において組合委員長である第一審原告村井ら組合三役に対し、自己の時間外労働賃金の支払請求を委任したことは明らかであるところ(第一審原告らは組合結成総会において第一審被告に対する未払の時間外賃金を請求するとの決議を行った。)、同村井は、右組合結成総会の決議にもとづいて、第一審被告に対して何度も交渉し、原判決一三枚目裏(一)ないし(四)のとおり時間外賃金支払の請求をした。右請求の後、時間外労働賃金の支払を拒否し続ける第一審被告に対し、第一審原告らは、昭和六〇年一月二三日、本件訴訟を提起したのであるから、少なくとも、昭和五九年八月九日の請求によって中断される昭和五七年七月一六日以降の時間外労働賃金の消滅時効が中断されたものである。
第三証拠(略)
理由
一 当裁判所は、第一審原告村井の本訴請求は本判決主文第二項1の限度で理由があり、同原告を除く第一審原告らの本訴請求は原判決認容(原判決主文第二ないし第五項)の限度(ただし、第一審原告金水については全部認容である。)で理由があるからこれらを認容し、その余は失当として棄却すべきものと判断するものであって、その理由は次のとおり、訂正、付加するほかは原判決の理由説示と同一であるから、これをここに引用する。
二(原判決理由の訂正)
1 原判決一九枚目表三行目の「請求原因1(被告)及び2(原告ら)の各事実」を「請求原因1の事実(ただし、第一審被告の従業員数及び東京支店の所在地の点は除く。(証拠略)によれば、第一審被告の従業員数は一三四名であり、東京支店の所在地は東京都千代田区平河町二丁目町一二番五号であることが認められる。)及び同2の事実」に、同四行目の「振替休日を具体的に指定していなかったこと」を「振替休日につき具体的に確定日を指定していなかったこと」に、同五行目の「原告らが」を「第一審原告ら(ただし、第一審原告村井及び同安岡を除く。)が」に訂正する。
2 二二枚目裏初行から二行目にかけての「多くあった。」を「多かった。」に、二三枚目表八行目の「着かなければならなかった。」を「就かなければならなかった。」に、二九枚目表三行目の「被告の従業員は仕事終了後タイムカードを打刻するまでの距離は僅かであり」を「第一審被告の従業員が仕事終了後その場所からタイムカードを打刻する場所まで移動する距離は僅かであり」に訂正し、三二枚目表三行目の「目的として、」の次に「昭和五九年五月二日に」を付加し、三四枚目表五行目の「よむよう指示し」を「読むよう指示し」に訂正する。
3 三一枚目表一〇行目の「但し」から同裏四行目末尾までを「ところで、(証拠略)によれば、第一審原告村井につき同原告の昭和五七年七月分(同年六月一六日から同年七月一五日の間)及び昭和五八年九月分(同年八月一六日から同年九月一五日の間)の届書が存在し、同原告は原判決別表二、別表五の(一)記載のとおり、届書に基づく時間外労働をしたことが認められるから、同原告につき別表五の(一)の各「賃金額」欄記載の金額の請求も認容すべきである(この点において、第一審原告村井の控訴は一部理由があるということになる。)。」に訂正する。
三(当審で付加する理由)
1 第一審被告の当審における主張一について
(証拠略)によれば、第一審被告主張の時期に第一審原告は本社総務課主任、城陽工場管理課課長、本社企画管理部主任の地位に、第一審原告安岡は本社営業部営業二課主任の地位にそれぞれあったこと及び両名は役職手当(一か月四万円)の支給を受けていたことが認められるが、しかし、前掲証拠の他に(証拠略)及び原判決挙示の証拠によれば、第一審被告の就業規則は、労基法四一条二号に該当し同規則上労働時間等に関する規定を適用しないものとして部長、次長、工場長、課長を挙げているが、主任や工場課長は挙げていないこと、第一審被告の賃金規定上、第一審原告村井及び同安岡が第一審被告から支給されていた役職手当は時間外勤務手当の算定の基礎の一つとされており、右役職手当が時間外勤務手当をも含んでいるものではないこと、両名の出社・退社の勤務時間等は、一般従業員と比較してこれよりも厳格な制限を受けていなかったとはいえず一般従業員と全く変わらなかったこと、両名が第一審被告の経営者と一体的立場にあったとはいえないこと、第一審被告は、本件訴訟が当審に係属するまでは両名が管理職であるとの指摘は全くしていなかったことが認められ、この認定に反する(証拠略)(第一審被告の「職制規程」。この規定の中には主任を管理職ないし准管理職とする旨の定めがあるが、前記就業規則の規定と噛み合わないところがあるのみでなく、この職制規程が当時から存在していたのか、本件紛争後に定められたものであるかが明らかでない。仮に当時から存在していたとしても、右の定めだけでもって、「主任」が第一審被告において監督・管理の地位にある者であると即断することはできず、後記の認定判断を覆すものではない。)は、(証拠略)に照らして採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
前記の各点及び本件証拠上認められる原判決認定の事実関係によれば、前記の地位にあった両名が当時第一審被告において労基法四一条二号にいう「監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」にあったとは到底認められず、両名がいわゆる管理職の地位にあったとはいえないから、第一審被告の当審における主張一は失当である。
2 第一審被告の当審における主張二について
原判決挙示の証拠及び前掲第一審原告村井本人の供述によれば、残業は第一審被告において日常的に行われていたこと及び第一審被告の費用で午後六時頃からラーメン等の食事を出していたのは同被告が従業員に残業をさせていたことを窺わせる事情の一つであることが認められるものであり、この点に関する原判決の認定に問題はない。
第一審原告村井及び同安岡が労基法四一条二号に該当するような管理職の地位にあったとはいえないことは前記1のとおりであるから、両名が右のような管理職の地位にあったことを前提とする第一審被告の主張は失当である。
(証拠略)によれば、営業課課員のうち内勤者以外の者は第一審被告から一万円の営業活動手当を支給されていたことが認められるが、この営業活動手当が時間外労働に対する対価であるとのことを認めさせる証拠はなく、この手当の支給をもって時間外労働に対する賃金の支払を免れることはできないから、右手当の支給により時間外労働につき実質的補償を行っている旨の第一審被告の主張も失当である。
結局、第一審被告の当審における主張二は理由がないといわなければならない。
3 第一審被告の当審における主張三、四について
第一審被告は、タイムカードは単に従業員の出・退社の記録にすぎず第一審被告における残業時間・労働時間の認定及び賃金計算は届書の記載によって行われていた旨のことをるる主張するが、(証拠略)に弁論の全趣旨を併せれば、第一審被告が就業規則を改正して「従業員を、所定時間外に就業させる場合には、所属上長が指示をなし、従業員は所定の用紙にて手続を行い、所属上長の承認を得なければならない。」との規定を設け、かつ残業に関する明確な届書を備え付けたのは、本件訴訟が提起された昭和六〇年一月頃になってからであって、それまでは第一審被告は、日給月給者を除く従業員の残業等の労働時間についてタイムカード以外による管理は十分にしておらず、むしろ第一審原告らが主張するとおり、従前は原則としてタイムカードによって従業員の労働時間を管理していたものと認められるものであって、この認定に反する前掲証人秦の証言は前掲他の証拠に照らして採用することができない。
したがって、第一審被告の当審における主張三、四も失当である。
4 第一審被告の当審における主張五について
原判決挙示の証拠によれば、第一審被告のした本件降格処分が不当労働行為に該当するとした原判決の認定判断は相当であり、これを覆すに足りる証拠はないから、第一審被告の当審における主張五も失当である。
5 第一審原告らの当審における主張四について
第一審原告らは組合結成総会において組合委員長である第一審原告村井ら組合三役に対し時間外労働賃金の支払請求を委任したと主張するが、右委任の事実を認めるに足りる証拠はないから、右委任を前掲とする第一審原告らの時効中断の主張(当審における主張四)は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないといわなければならない。
四(結論)
以上によれば、第一審原告村井の法内時間外労働賃金は、原判決別表五の(一)の法内時間外労働欄記載の賃金額合計一二三七円と同別表五の(三)の法内時間外労働賃金合計額欄の一八万一四六五円とを併せた<1>一八万二七〇二円となり、法外時間外労働賃金は、同別表五の(一)の法外時間外労働欄記載の賃金額合計三九二九円と同別表五の(三)の法外時間外労働賃金合計額欄の一〇六万三二六四円とを併せた<2>一〇六万七一九三円となり、付加金は右と同額の<3>一〇六万七一九三円となる(本件では右金額の付加金の支払を命ずるのが相当である。なお、法外時間外分合計額は右<2>と<3>の合計の二一三万四三八六円である。)。そうすると、同原告の本訴請求は、前記<1>ないし<3>の合計二三一万七〇八八円及び右<1>の法内時間外労働賃金額一八万二七〇二円に対する本件訴状送達の翌日である昭和六〇年二月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却すべきものである。その余の第一審原告らの本訴請求は、原判決認容の限度(ただし、第一審原告金水については全部認容である。)で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却すべきものである(原判決三六枚目裏九<ただし、第一審原告村井に関する部分を除くの。>)。
よって、原判決中右と異なる部分は不当であり、第一審原告村井ら四名の控訴(第二一二九号事件)のうち第一審原告村井の控訴は一部理由があるから、原判決のうち主文第一項を本判決主文第二項のとおり変更し、第一審原告安岡、同金本及び同小林の控訴並びに第一審被告の控訴(第一九五四号事件)はいずれも理由がないからこれを棄却し、なお、本判決主文第二項2において第一審原告村井のその余の請求を棄却した関係上、原判決主文第六項を本判決主文第三項の括弧内のとおり改めることとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 今富滋 裁判官 妹尾圭策 裁判官 中田昭孝)